地域医療構想とはどのような取り組みのこと?必要とされる背景と医療提供体制の問題点
地域医療構想とは、2025年以降に訪れる少子高齢社会を見据えて、地域で必要とされる医療と介護を適切な形で効率よく提供するための政令です。
地域医療構想に関しては、内容や、個人の生活にどう関わるか、きちんと理解しておきたいところです。
この記事では、地域医療構想の概要と取り組みの内容を解説します。
あわせて、地域医療構想が必要とされる背景や、医療提供体制の問題点、地域医療構想に関連する取り組みなどもご紹介するので、参考にしてください。
地域医療構想とは?
地域医療構想とは、2025年の医療需要を想定して地域ごとの医療提供体制を整えることを目的とした政令です。
2025年には日本の高齢化が著しく進むことが予想されているため、地域ごとの医療需要を把握し、需要にあわせて地域医療を整備することが求められています。
そこで各地域で地域医療構想調整会議を設置し、医療機能ごとに必要な病床数を割り出して、無駄のない医療提供体制を整えようとしているのが地域医療構想の取り組みです。
必要な場所で必要な医療を提供し、医療の地域格差や医療崩壊を防ぐために、地域医療構想に基づいた各地域の対応が求められています。
地域医療構想が必要な理由
地域医療構想が必要な理由として、大きなものは2025年問題です。
2025年問題とは、2025年に団塊の世代がすべて後期高齢者になることを指します。
団塊の世代は、1947年~1949年に生まれた方を指す言葉です。
この3年間で生まれた子どもの人数は800万人を超えたため、この期間は第一次ベビーブームとも呼ばれました。
2025年には、1949年生まれの方が75歳を迎え、後期高齢者となります。
必然的に医療や介護を必要とする方が増える一方で、少子化が進む日本では限られた医療の担い手や設備を効率良く配置していくことが求められます。
また、2025年を迎えるにあたり、都市部と地方との間に需要差が生まれることが予想されるため、地域医療構想では段階に応じた細やかな需要の把握によって医療のリソースを効率良く振り分けようとしています。
地域医療構想における4つの医療機能区分
地域医療構想においては、医療の段階を以下の4つに区分し、それぞれの需要を地域ごとに把握する試みがおこなわれています。
- 高度急性期:集中治療室など診療密度が特に高い医療を提供する時期
- 急性期:状態の早期安定化が必要とされる時期
- 回復期:急性期を過ぎ、在宅復帰に向けてリハビリテーションをおこなう時期
- 慢性期:長期にわたって療養を必要とする時期
それぞれの段階で必要とされる医療に違いがあるため、地域医療構想では地域別かつ段階別に必要とされる病床数を割り出します。
さらに、これを毎年報告することにより、病床の偏りや過不足を是正して、適正数の病床を確保するように努めるものです。
地域医療構想の実現プロセス
地域医療構想の実現プロセスに関して、厚生労働省の発表をもとに解説します。
1.「地域医療構想調整会議」で協議
まずは各都道府県単位で「地域医療構想調整会議」を開催します。
地域医療構想調整会議は、地域の中核となる医療機関の役割を明確にし、その他の医療機関との役割分担をおこなう段階です。
中核の医療機関では、救急医療、小児、周産期医療などの役割を集約し、その他の役割はその他の医療機関へ移行するのが基本の方針です。
また、中核の医療機関とその他の医療機関とで、密な連携を計画するのも地域医療構想調整会議の役割となります。
2.「地域医療介護総合確保基金」による支援
地域医療介護総合確保基金は、消費税増収分を財源とした地域医療の支援基金です。
基金は各都道府県に設立されており、地域医療や介護に関して、地域医療構想調整会議で決定した機能分化や連携をおこなうための資金と定義されています。
具体的には、施設および設備に対する整備費用に充てられるものです。
病床の移転など費用が必要な際、基金を使用して支援していく形です。
3.都道府県知事による適切な役割の発揮
地域医療構想調整会議の結果に基づき、基本的には地域医療のなかで自発的な協働や、医療体制の整備が求められます。
しかし、自発的に各医療機関が連携して適切な病床数の調整ができない場合などは、都道府県知事が介入することで機能分化や連携を推進していくことが可能です。
例えば、都道府県知事は、地域ですでに機能が足りている医療機能に対して、新たな医療機関の参入停止を命令あるいは要請できます。
反対に、地域で不足している医療機能に関しては、新たな医療機関に参入してもらえるよう都道府県知事から指示・要請することも可能です。
地域医療構想に関わる取り組み・制度
地域医療構想に関わる取り組みや制度には、以下のようなものがあります。
医師の働き方改革
地域医療をニーズにあった形に整えるためには、医師の働き方改革が不可欠です。
そもそもこれまでは、医療リソースの不足から、医師の長時間労働のうえに医療が成り立っている地域もありました。
しかし、こうした過剰労働は、医療の安全や質を長期的に確保できる状況ではないことを示しています。
そこで令和6年4月から、医師の働き方改革の新制度がスタートすることになりました。
安全で質の高い地域医療を持続的に提供するためには、医師が健康的に効率良く働くことが不可欠であるとされ、労務管理やタスクシフト・シェア、あるいは医療機関の最適配置などの方法で改革が実施されることとなっています。
地域包括ケアシステム
地域包括ケアシステムとは、地域に住まう高齢者に対して、住まい・医療・介護・予防・生活支援のすべてを一体的に提供するシステムです。
システムの一体化によって効率の良いサービス提供が可能になるため、2025年以降に訪れるさらなる少子高齢化社会には不可欠です。
しかし、地域医療が適切に提供されていなければ、地域包括ケアシステムも成り立たなくなってしまいます。
ケアのニーズを正確に把握するためにも、前提条件として地域医療構想の実現が求められるといえるでしょう。
まとめ
地域医療構想は、今後日本に訪れる少子高齢社会を穏やかに乗り越えるために必要不可欠な政令です。
高齢化が進むと医療や介護を必要とする方は増えますが、医療や介護の担い手は限られるため、効率的に医療や介護を提供する必要があります。
その手段の一つとして動いているのが、地域医療構想です。
日本の高度経済成長を支えた団塊の世代が後期高齢者となる2025年以降、必要な医療介護サービスの提供を受けながら、安心して暮らせる医療体制を整えることは、それよりも下の若い世代にとっても大きな安心材料となることでしょう。