「医師の働き方改革」で何がどう変化する?制度内容をあらためておさらい
「医師の働き方改革で、何が変わるんだろう?」「給料はどうなるのかな?」など、疑問に思っている方もいるでしょう。
2024年(令和6年)から施行される法律では、長年の問題となっている医師の長時間労働の解消が大きな焦点となっています。
この記事では、医師の働き方改革のポイントをわかりやすくお伝えするとともに、注目されるタスク・シフティングや実際の医療機関でおこなわれている事例もご紹介します。
医師の働き方改革とは
医師の働き方改革の一番の目的は、よりクオリティの高い医療を提供するために必要な、医師の休息時間などの確保です。
医師が心身を健康に保つこと、医師が自己研さんや研究、休息のための時間を十分に取れる状況にするのが重要だと考えられています。
そのような目的のため、良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等改正の趣旨の一部を改正する法律(医療法等改正法)が、2021年(令和3年)5月21日に成立しました。
実際に施行されるのは2024年(令和6年)4月1日になります。
その日に向けて、医師の労働時間短縮や健康確保のための対策を段階的に進めようとしているのが、現在の状況です。
ただし、この制度は勤務医のみが対象で、事業主となる開業医は対象外となっているなど、いくつか注意すべき点があります。
※出典:
医師の働き方改革について│厚生労働省 医政局 医事課 医師等働き方改革推進室
医師の働き方改革のポイント
長時間労働が常態化しているといってもいい医師の働き方を、どのように改革していくのでしょうか。
続いて、医師の働き方改革のポイントをお伝えします。
時間外労働時間の上限規制
今度の改正法では医師の健康と地域医療提供体制を両立させるため、医療機関の特性に応じてABC3つの水準が設けられることになっています。
種別 | 対象 | 時間外労働の上限 | 追加的健康確保措置(義務) | 追加的健康確保措置(努力義務) |
---|---|---|---|---|
A水準 | 通常の医療機関 | 年間960時間 月100時間未満 (休日労働含む) |
・面接指導 ・就業上の措置 |
・連続勤務時間制限 ・勤務間インターバル ・代償休息 |
B水準 | 特定地域医療提供機関 (救急医療を提供する医療機関等) |
年間1860時間 月100時間未満 (休日労働含む) |
・面接指導 ・就業上の措置 ・連続勤務時間制限 ・勤務間インターバル ・代償休息 |
– |
C水準 | 技能向上集中研修機関 (研修指定医療機関等) |
B水準の特定地域医療提供機関とは、地域医療をおこなううえで、長時間労働がどうしても必要となってしまう病院などを指しています。
救急搬送を受けている病院などが、それにあたります。
C水準は、インターンなど短期間である程度の経験を積み、技術を向上させる必要がある者が所属する病院などです。
注意すべきなのは、指定を受けた医療機関のすべての医師が同じ水準になるわけではない点です。
例えば、同じ医療機関でも救急医療に従事する医師はB水準、研修医はC水準などのように異なります。
もし、同一の病院内にB水準とC水準の者がいる状況の場合、医療機関自体がBとC両方の指定を受けなければなりません。
※出典:
医師の働き方改革 概要│東京都福祉保健局
追加的健康確保措置
やむを得ず時間外労働の上限を超える場合の対応も決められています。
それは、対象となる医師に対しての「面接指導」、その結果を踏まえた「就業上の措置」を取ることなどで、いずれも義務です。
加えて、以下のことがらも義務ですが、A水準に対しては努力義務となっています。
- 連続勤務時間制限……28時間まで
- 勤務間インターバル……9時間確保する
- 代償休息……連続勤務時間制限や勤務間インターバルを守れなかった場合、労働した時間に合わせてすみやかに休息を取る
少し補足していきましょう。
連続勤務時間制限は、労働基準法上の宿日直許可を得ている場合を除きます。
また、宿日直許可がない医療機関の場合、勤務間インターバルは18時間です。
そして、代償休息を与える場合は、対象となる勤務が終わり次第すみやかに付与しなければなりません。
そのときは、しっかりと睡眠を取って体を休めることとされています。
つまり、代償休息の間に事務仕事をするのはNGということですね。
※出典:
中間とりまとめ│医師の働き方改革の推進に関する検討会
時間外割増賃金率の引上げ
大企業ではすでに始まっていますが、2023年(令和5年)4月より、医療業界を含めた中小企業でもスタートする制度です。
これによって、月60時間を超える法定時間外労働に対する割増賃金率が「50%以上」となります。
ちなみに、現在は法定労働時間(週40時間、1日8時間)を超える時間外労働に対して25%以上の率で運用されているので、実質的な残業代の賃上げといえるでしょう。
医療機関側としては、時間外労働をした際に残業代を支払うこと、そのかけ率をアップさせることが義務となります。
※出典:
改正労働基準法│厚生労働省
医師の働き方改革に向けて注目されるタスク・シフティング
医師の働き方改革といっても、ただ医師の労働時間を制限するだけでは医師の負担を減らせないことは明白です。
そのため、医師が抱えている仕事の一部を病院内の他のスタッフに受け持ってもらうことをタスク・シフティングといいます。
タスク・シフティングを実現するためには、チーム医療の推進が重要です。
実際に業務を移管させる先としては、看護師や診療放射線技師、理学療法士や救急救命士、そして医療クラークなどが考えられます。
チーム医療を進めるためには、スタッフ同士の信頼関係がとても重要になってくるため、日頃から各部署がコミュニケーションを取りやすい職場づくりも大切です。
また、仕事を配分された側が激務化しないようにする工夫も求められます。
医療機関でおこなわれている医師の働き方改革の好事例
法律の説明だけではわかりにくい部分もあるでしょう。
実際に勤務先がどのように変わっていくのかをイメージしやすいように、取り組みを始めている病院の事例をご紹介します。
※出典:
医師の働き方改革に関する好事例│厚生労働省 医師の働き方改革の推進に関する検討会
藤枝市立総合病院(労務管理)
労働時間の管理がしっかりとされておらず、休暇や休業制度も認識されていないなどの問題がありました。
そのため、ICカードを利用して勤怠管理の厳格化に取り組み始めたそうです。
すると、労務管理に対する職員の意識が向上し、医師の85%がこの取り組みを実施して早すぎる出勤などを控えるようになりました。
医療法人社団美心会黒沢病院(タスクシフト・シェア)
黒沢病院では、事務仕事の量が多いことが医師や医療クラークの間の課題となっていました。
そこで、医師や他スタッフの業務内容を整理し、医療事務作業の補助者増員などの対策を取りました。
結果として、医師の残業が約半分に減ったほか、診断書作成のスピードも半分に減少したそうです。
聖路加国際病院(医師間の業務整理)
夜間においても通常の勤務状況が継続しており、「宿直に当たらない」と労働基準監督署から指摘されたことがきっかけとなった、聖路加国際病院。
そこで、医長や副医長、部長クラスの医師にも夜間勤務を担ってもらって医師間の業務量を平準化しました。
また、土曜日の診療を段階的に廃止したことで医師の月間残業時間が半分以下に減少しました。
公立森町病院(病院連携)
2次医療圏に属する病院のため、1次、2次救急への対応が必要な病院です。
しかし、医師の不足によって救急医療体制の維持が難しくなっていました。
そこで、町内の診療所との定例会を設けたり、診療所の医師に救急外来業務を手伝ってもらったりなどの対策を取ったところ、医師の労働時間削減と救急医療体制の整備を両立させられました。
まとめ
医師の働き方改革では、医師が長時間労働に従事している状況を改善し、より健康的に質の高い医療をおこなえるようにするのが大きな目的です。
しかし、ただ法律ができただけでは、状況改善には足りないでしょう。
病院が積極的に動いて職種間の業務整理やタスク・シフティングを進めたり、医師自身も進んで休息を申し出たりすることが必要です。
これからは、医師が長時間労働を当然とする時代から、コミュニケーションとバランスの取れたチーム医療が求められる時代へと変わっていくでしょう。